咳は咳止めでは治りません
風邪かなと思っていたら、咳だけが続いている、一応市販の咳止めは飲ませて止まったけどやめたらまた出始めた、ということはありませんか?咳は体に備わった重要な防御反応です。 小児呼吸器科医からみると、治療手段の一種である「咳」を止めてしまう、咳止めは使ってはいけないお薬の代表例です。たかが咳、風邪のお供と思ってあなどっていると呼吸器感染症や喘息以外の 病気のこともあります。咳は一つの病気のサインです。
咳が2週間以上続くようであれば、咳の原因を見極める必要があります。
咳が出る病気
咳は、体の防御反応です。咳の原因が無くなった結果、咳が止まるのはいいのですが、原因が放置されて咳だけ止めてしまうと病気自体は長引いてしまいます。
咳が出る病気には・・・
風邪、肺炎、小児気管支喘息、咳喘息、副鼻腔炎や鼻が悪い時、アトピー性の咳(喉がかゆい)やアレルギーの咳、クループ症候群、冬場にはインフルエンザ、百日咳など
その他さまざまな病気で咳が出ます。
咳が出る病気の概要
風邪
細菌・ウイルスなどに感染し、鼻や喉などの上気道に炎症が起こってしまう状態です。かぜ症候群や感冒(かんぼう)などとも呼ばれます。ほとんどの場合、ウイルスが原因とされています。風邪を引き起こすウイルスとしては、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス、RSウイルス、コクサッキーウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ライノウイルスなどが挙げられます。
10日~25日で改善されるケースが多いのですが、炎症で気道が過敏になると、咳が慢性化することもあります。この状態を感染後咳嗽(かんせんごがいそう)と呼びます。あらゆる可能性を踏まえて、こまめに受診して経過観察し続けることが必要です。
クループ症候群(急性喉頭気管支炎)
声の通り道の炎症などで発症する、呼吸症状の総称です。生後6か月~3歳ぐらいまでの子供に多く見られ、「ケンケン」とイヌやオットセイの鳴き声のような咳、息を吸い込む時の喘鳴、声がれ。が3大症状です。発熱、鼻汁も見られます。重症化すると、肩呼吸や陥没呼吸(息を吸う時に肋骨の下や胸骨の上が凹む)、息を吸う時にヒューヒュー音がするようになります。そのような症状が出現したら、速やかに受診してください。クループは救急センターを受診しなければならない病気です。
特に、1歳未満の子どもの場合が重症化しやすい傾向があります。
治療は主に、交感神経刺激薬とステロイド剤の吸入やステロイド剤の経口投与。重症な場合には酸素の投与が必要になります。
副鼻腔炎
顔の奥に位置していて、鼻と繋がっている空洞(副鼻腔)が感染などで炎症を起こしてしまう状態です。空洞に膿が溜まり、それが鼻を通過して喉へ流れ落ちる後鼻漏(こうびろう)が一つの目印になります。それにより、咳が出るケースもあります。
急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎に分かれており、急性の場合は60%の方が自然治癒されると言われています。しかし不適切な治療を行ったり放置したりすると、慢性化してしまう恐れがあります。黄色い鼻汁などの症状が現れましたら、まずは受診して抗菌薬などを正しく服用して根治させましょう。顔面のX線検査などを行ってから診断を下しますが、状態を細かく調べるためにCT検査を受けていただくこともあります。
気管支炎・肺炎
風邪などを放置して、炎症が上気道から下気道までに及んだ結果、気管支炎や肺炎に至ることがあります。発熱や咳などの症状が激しくなるため、慎重に治療法を選択しなくてはなりません。急性気管支炎はウイルス感染によるものがほとんどなので、抗菌薬などの効果が発揮されません。しかし長引く咳などの症状から細菌感染が疑われる場合は、抗菌薬の処方も選択します。薬の効果が得られず、なかなか改善されなかった場合は、百日咳やマイコプラズマ感染などが疑われます。
肺炎の治療法は基本的に、気管支炎とほぼ同じものです。しかし呼吸困難などのリスクが高く、酸素吸入などが必要になる可能性もあるため、入院できる医療機関へご紹介することもあります。
気管支喘息
何らかの原因で気管支などに炎症が起こり、気道が狭くなってしまう状態です。ささいな刺激でも喘息発作が起こり、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」と音が鳴る「喘鳴(ぜいめい」」を伴います。
主な原因としては、アレルギーが挙げられます。特にハウスダストやダニなどのアレルギーをきっかけに発症しやすく、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーを抱えている子に多く見られます。
しかし、中には特にアレルギー反応が見られないにもかかわらず、急に気管支喘息を発症する子供もいます。「風邪を引いた後、咳が続いていた」「夜明けになると咳で苦しくなり、起きてしまう」「運動した後にゼーゼーする」などの様子がありましたら、一度受診して検査を受けてください。
喘息がある方もない方も、「咳がひどくてしゃべれない」「肩で息をする」「息をするたびに鎖骨の上・肋骨の下が凹む」「小鼻をヒクヒクと動かしている」「寝入りの時間帯より午前3時頃の真夜中の咳が酷い」などに当てはまっていましたら、速やかに医療機関へ受診してください。
咳喘息
喘鳴や呼吸困難といった症状がなく、咳だけがみられる喘息です。子供の症例も多くみられます。痰が絡まない、乾いた咳が続くのが特徴です。気管支喘息と同じように、深い睡眠中や、冷気、タバコの煙などが刺激になって発症します。一般的な風邪薬を服薬しているに、喘鳴を伴わない乾いた咳が続いて、鼻汁、くしゃみ、いびきがない場合は、咳喘息の可能性が高いです。治療は気管支喘息と同じように、気管支拡張薬や抗アレルギー薬などを処方します。咳喘息を繰り返すと、本物の気管支喘息に移行することも報告されていますので、小児呼吸器科医による、きめ細かな治療が必要になります。
百日せき
百日咳菌(またはパラ百日咳菌)に感染することで発症する感染症です。飛沫を介して感染します。初めは風邪と似た症状が1~2週間続きますが、その後、けいれんするかのような咳が出ます。「コンコン」と聞こえる咳が立て続けに現れ、息を吸う度に「ヒュー」と音を立てる傾向があります。
顔面が赤くなる症状を伴うこともあります。その後、1週間~数か月を経て改善されます。現在は4種混合ワクチンなどが開発されたため、百日咳の発症率は減少傾向にあります。しかし近年では高学年を中心に、少しずつ発症者が増えています。
また、家庭内での感染も多いです。ワクチンを接種していない6か月未満の子どもが感染してしまうと、咳発作に加えて無呼吸発作を引き起こし、最悪の場合死に至る危険性もあります。
感染症法では、全例報告すべきと義務付けられています。
また、学校衛生法では「完全に咳が消えるまで」、また「5日間の抗菌薬による適切な治療を受けて効果が得られた」と認められるまで出席できないと決められています。
大人が感染するケースもあるため、特徴的な症状が見られた場合は、周りへ感染を拡げないよう、医療機関へ受診・検査を受けてください。海外では5歳、11歳で百日咳ワクチンの追加接種が一般的です。
気道異物
子どもは好奇心が旺盛なので、何でも口に入れてしまうことが多くあります。そのため食べ物以外の物も飲み込んでしまうケースが後を絶ちません。異物が喉や気管支などに挟まり続けると呼吸困難が引き起こされますが、小さなものを飲み込んだ場合は、ある程度気道が確保されているため喘鳴に似た呼吸音が聞こえてきます。
一時的には問題なくても、異物が移動して呼吸できなくなる恐れもあります。様子を見ずに、速やかに救急車を呼んでください。異物は内視鏡などで取り出します。
※「誤飲」と「誤嚥(ごえん)」は全く違います。
誤飲と誤嚥は音の響きが似ています。
誤飲は、異物を誤って飲み込んでしまうことです。一方、誤嚥は食べ物や飲み込んだ異物が食道ではなく、気管支の方へ流れてしまう状態です。
誤飲の場合、例えばボタン電池は、わずか数時間で中に入っているアルカリ性の物質が溶け出して危険な事態になるケースもあります。食べ物であっても異物であっても気管支に入ると激しく咳き込んだり呼吸困難に陥ったりします。元気だったお子さんが急に発作性の咳を発症した場合には、まず気管内異物を考えましょう。なかでも3歳以下の気道異物の半数以上を占めるのがピーナッツです。気管の強い炎症や肺炎に至るリスクが高いものです。3歳以下のお子さんには刻んだものも含めて、ピーナッツは絶対に食べさせないようにしましょう。
気道異物が疑われた時には一刻も早く大きな施設の救急センター受診してください。
胃食道逆流症
逆流性食道炎(大人に多い)の前段階です。子供の場合は食べすぎや食物アレルギーなどによって、授乳中の赤ちゃんの場合は、授乳時の姿勢や飲みすぎなどで起こります。授乳後にゲップしながら吐き下すのは、正常の範囲内と考えて問題ありません。
しかしアレルギーや胃・食道などの先天的異常などによって逆流を起こしている可能性も考えられます。その場合は、食道の咳受容体を胃酸が刺激したり、炎症が気管まで広がって、咳が出続けているかもしれません。
特に、「昼間に乾いた咳をしている」「横になると咳が出る」といった様子がみられた場合は、胃食道逆流症が疑われますので、受診して適切な検査を受けるようにしましょう。
心因性咳嗽(がいそう)
咳嗽(がいそう)とは、医療用語で咳のことです。ストレスや緊張といった心理的要因によって気道が刺激され、咳が続いてしまいます。昼間は乾いた咳が続くのですが、就寝時になると咳はみられません。
副鼻腔炎や気管支喘息、咳喘息、胃食道逆流症など、他の疾患が隠れていないことが確認されてからでないと、心因性咳嗽という診断に至ることはありません。
咳の症状の違い
熱が出ているのか、タンはどうか、鼻はどうか、目やに、鼻血は出るか、咳の起こる時間帯はどうか、寝入りばなや寝起きなのか、深い睡眠に入った真夜中なのか、日中ずっとなのか、「コンコン コンコン」(乾いた咳)「ゴホン ゴホン」(湿った咳)なのか、「コンコンコンコンコンコンヒー」(百日咳の場合)なのか「ケーン ケーン」(クループ)なのかなど、音で判断することもできます。
咳の種類、下記のように音で判断することもできます。
- 「コンコン コンコン」(乾いた咳)
- 「ゴホン ゴホン」(湿った咳)
- 「コンコンコンコンコンコンヒー」(百日咳の場合)
- 「ケーンケーン」(クループ)
- 「ゼーゼーヒューヒュー」(苦しそうな咳)
※明け方と夜中に「ゼーゼーヒューヒュー」と苦しそうな咳をしている時には、 小児気管支喘息の疑いもあるので、速やかに病院へ連れて行きましょう。
咳の原因
長引く咳は、咳の種類や特性を見極めることが重要なため、今までの経過やお薬、生活環境に関してお話を伺い、検査を行い、原因を特定します。
ご自宅でのケア
室内の湿度を60%くらいにて気道への負担を減らします。部屋の空気も汚れているようなら入れ替えをしましょう。
咳きこんでいるときには、抱っこしたり、上体を起こして背中をさすってあげると、少し楽になります。 また、こまめな水分補給も効果的です。水分補給は咳だけでなく、タンがやわらかくなり、喉からタンが出やすくなります。
※ ご自宅でのケアをご紹介しましたが、お子さまの長引く咳は色々な原因が考えられますので、自己判断せず、必ず受診しましょう。
お子様を持つご両親様へのメッセージ
咳が出ていると、よく内科医は咳止めを出しますが、咳が止まっても、咳の原因が治ってなければ咳は続きます。
受診される時に、スマホ等で、咳が出ている時に動画や音を録音、録画しておいていただけると、咳の原因を見付け出す良いヒントになりますのでお持ちいただければと思います。