アトピー性皮膚炎にお悩みの皆様へ――炎症や痒みを抑えるだけではなく、肌本来のバリア機能を根本から再生する新世代の治療薬「コレクチム軟膏」と「モイゼルト軟膏」が登場しました。 アトピー性皮膚炎の根本的な治療のゴールは、痒みや赤みを取り除くだけではありません。本当のゴールは、潤いと弾力のある健康な皮膚バリアを取り戻すことです。
アトピー性皮膚炎って何でしょう?
漠然としていて分かりにくい診断名です。ある病院では「乾燥性皮膚炎」といわれ、
次の病院では「軽いアトピー性皮膚炎」といわれ、混乱を招くことが多いのですが、実は『軽快、悪化を繰り返す強いかゆみをを伴う湿疹でアレルギー家系、または本人がアレルギー体質であること』という約束で診断名が付くことが多いのです。
海外からご帰国の方は経験があるかもしれませんが、欧米の家庭医は「アトピー性皮膚炎」という診断名を使わない傾向にあるようです。単純に「eczema」(湿疹)と呼ぶことが多く
あえてアレルギーと関連付けないようにして、アトピービジネスや民間療法の罠に嵌らないようにしているようです。「乳児湿疹」と「アトピー性皮膚炎」の境界は明確ではありません。
かゆい炎症は、なぜ起こるのでしょうか
- 皮膚のバリアの不足
- アレルギー性の炎症
- 感染(細菌、ウイルス、真菌症など)
- 痒みで引っ掻く
アトピー性皮膚炎は生まれつきの素因として皮脂成分の不足があることと、免疫システムの過剰な反応が起こることをきっかけに発症します。一度、炎症が起こってしまうと、炎症がバリアをさらに壊し、バリアが壊れると炎症が強くなるという悪循環が始まります。
さらにそれに加えて痒いと引っ掻く、引っ掻くと炎症が強くなるという悪循環も加わり悪化の一途をたどることになります。
アトピー性皮膚炎の治療法
前述の悪循環が丁寧なスキンケアだけで改善し自然治癒に向かうこともありますが、決して高い確率ではありません。
早期治療の重症性
乳児湿疹→アトピー性皮膚炎→食物アレルギー→小児喘息→花粉症
アレルギー疾患が順番にやってくることを『アレルギーマーチ』と呼びます。このアレルギーマーチの最初のイントロが乳児期の皮膚の荒れから起こる「経皮感作」だということが科学的に証明されました。
乳児期に皮膚のコンディションの管理が、将来のアレルギー体質の運命を決定すると言ってもいいでしょう。
さらに慢性の炎症を繰り返しているうちに皮膚の内部構造まで失われてしまうと治療が困難になってしまいます。
ステロイド剤の落とし穴
ステロイド剤と聞くと何となく怖いと感じられる方も多いかもしれませんが、ホルモン剤としての副作用の心配はほとんどありません。ただいい加減な使い方を繰り返してステロイド依存状態になってしまうことがあるので、怖い薬とも言えます。
ステロイド剤を使う上での大事な約束
- 塗る日数が確実に減っていること
- 塗らない日が確実に増えていること
- 塗る場所が確実に減っていること
先の展望が見えていることが大事です。塗れば良くなるけど、やめたら元に戻る、、このくりかえしがダラダラ続くとステロイド依存症なってしまいます。
強いステロイドと弱いステロイド
海外からお戻りの患者様は、たいがいとても強いステロイド剤をお持ち帰りになります。さて弱いステロイド軟膏を10日間塗るのと、それよりも5倍強い軟膏を2日間塗るのを比べると、ステロイドの量は同じですが、どちらが良いでしょうか。
雑草取りをイメージしていただくと理解しやすいのですが、実は弱いステロイドがいい加減な「草刈り」、強いステロイドがしっかり根っこまで抜く「草むしり」に当たります。
もちろん強すぎるステロイドを使う必要はありませんが、弱いステロイドを頻回に塗り続けるのは安全とは言えないのです。
酷いところに塗ってください!は誤り
わざわざ酷くしてから塗るのか、軽いうちに塗るのか?前述の草むしりを想像していただければ答えは明確です。
草むしりをしても、完全なバリアが出来なければ当然また雑草が生えてきます。
草ぼうぼうになる前、まだ少ないうちに塗ったほうが、当然、ステロイドを塗る量も少なく済みますし、皮膚のバリアのダメージも少なく済むのです。
最新治療・新しいステロイド以外の抗アレルギー抗炎症剤の登場
当然、ステロイド依存、ステロイド副作用を完全に回避することが出来ます。
コレクチム軟膏
2021年から使用が開始され、2023年2月から生後6か月からの使用が可能になりました。
抗炎症作用の強さはクラスⅢ程度かあるいは、その少し下。もちろん合う合わないはあるかもしれませんが、とても効果的で使い心地の良いお薬です。
モイゼルト軟膏
2022年から使用が開始され、2023年12月から生後3か月から使用が可能になりました。抗炎症作用の強さはコレクチムと同じです。
コレクチムとモイゼルトのどちらを選択するべきかの明確な基準は未だ示されていませんが、どちらの薬剤も効果的で間違いなくステロイドの使用量、使用期間の短縮に役立つものです。また今まで“脱ステロイド治療”をセールスポイントにする怪しいアトピービジネスに依存する必要がなくなることも朗報と言えるでしょう。
現在の使い方としては、強い炎症については皮膚が良好な状態になるまではステロイド軟膏を使用し、減量を試みたところでコントローラーとしてステロイドから新薬に変更していくという戦略になります。
肌バリア再生の具体的なメカニズム
これらの治療薬の最大の特徴は、皮膚の奥深くに働きかけ、肌のバリア機能を支える「セラミド」や「天然保湿因子(NMF)」の産生を促進することです。
従来のステロイド治療は主に炎症を抑えることに特化していましたが、コレクチムとモイゼルトは以下のようなメカニズムで皮膚の再生をサポートします
炎症性物質の抑制
コレクチムとモイゼルトは、炎症を引き起こすサイトカインの働きを抑制することで、痒みや炎症を軽減します。この作用は穏やかで持続的であり、長期使用に適しています。
セラミド産生の促進
セラミドは皮膚のバリアを構成する重要な成分であり、外部刺激や乾燥から肌を守る役割を果たします。これらの軟膏は皮膚細胞内でセラミドの産生を活性化しバリア機能を強化します。
保湿因子の再生
皮膚内のケラチノサイト(表皮細胞)に働きかけ、天然保湿因子(NMF)の生成を促します。この結果、肌の潤いが保たれ、乾燥による痒みや炎症を抑える効果が期待できます。
抗酸化作用と細胞修復の補助
さらに、モイゼルト軟膏には細胞の抗酸化システムを活性化させる効果もあり、ダメージを受けた皮膚細胞の修復を促進します。 これにより、肌の健康が内側から改善されていきます。
従来の治療との違い
ステロイド治療では炎症の抑制を目指すため、使用を中止するとリバウンド現象が起こる場合があります。
しかし、コレクチムとモイゼルトは、肌の基礎機能を強化しながら治療を行うため、リバウンドのリスクが低いのが特徴です。
当院では、これらの治療薬を取り入れることで、多くの患者様が短期間で肌の変化を実感しています。
今まで治療が長引いていた方や、従来の治療法で満足できなかった方にとって、希望の光となる治療法です。 ぜひ一度、当院でご相談ください。
ご両親へのメッセージ
アトピー性皮膚炎の治療は、炎症を鎮めることと日々のスキンケアーが基本です。
当院ではご両親任せにしないステロイドの管理で、塗る場所、塗る量まで細かくお教えしています。皮膚はとても繊細な臓器です。
しっかりした触り心地の良いつるっとして皮膚のバリアが出来上がるまで、しっかり治しましょう。バリアが出来上がってしまえば、再発は極めて稀です。
初診の方には十分な説明時間を用意いたしますので、ぜひご相談ください。